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きっとシャングリラだよ

映画『青の炎』悲劇は少年の形をしている【感想】

お世話になっております。いかがお過ごしでしょうか。

それでは今回も映画感想いってみましょう。今回はこちら。どん。

 

『青の』 監督:蜷川幸雄 主演:二宮和也

 

一気に時代をさかのぼりましたね。なんていうか全てはここから始まったみたいなのを見てみたかったわけですよ。いやこの前だってあるんですけど、なんていうか二宮くんの巨匠キラーの歴史みたいなもんじゃないですか。やっぱりね、こう、履修しておきたかったわけですよ。

 

※なお原作は未読。圧倒的ネタバレを含みます。個人的には結末を知らずに見てよかったなぁと思う作品なので、見ていない方はブラウザを閉じ即刻TSUTAYAへGOでお願いします。

 

 

 

「僕は、独りで世界と戦っている」

 

名コピーだと思う。本当に、この映画を一言で表すと、これに尽きるんだと思う。

自分は「独り」だと思うこと。自分が戦っているのが「世界」だと思ってしまうこと。戦わなくてはいけないと思ってしまったこと。

それらすべてが、子供でもなく大人でもない「高校生」という生き物であること、そのものなんだと思います。

この映画はありとあらゆる意味で、「高校生」っていうのはどういう生き物なのか、っていうもので。

櫛森秀一くんは頭が良いけれど、悪い子でもあって、でも人に見せるための不良でもなくて、エッチなことにも興味があって、でも女の子にそこまで積極的になれるわけでもなく、友達もいくらかいて、絵が上手くて、でもそこまで熱心でもなく、妹と母さんのことが大好きで、そういう男の子。目指したものは完全犯罪だったかもしれないけれど、ミステリやサスペンスものの典型としての意味で、彼は決してヒーローではない。ただの男の子。

本当は、彼は独りで戦ってはいけなかった。独りで戦うべきじゃなかった。もっと多くの誰かに救いを求めるべきだった。そもそも戦ってはいけなかった。それは彼の役目ではなく周りの大人がすべきことだった。そして彼が戦った相手は世界なんかでは全然なかった。もっとちっぽけで、とるに足らないものだった。うまくいくわけがないんだ。だって勘違いなんだもん。

でもそれを、「独りで世界と戦っている」と思い込めてしまったのが、秀一くんが高校生だった、っていうことなんだろうな。

秀一くんのクラスメイトたちは、何だか事情もわからないなりに必死に秀一くんのアリバイを証明するように刑事さんたちに嘘をついた。彼らは一生懸命に友人を守った。けれどそんなものは大人たちに簡単にすり潰されてしまう。ちっぽけな高校生たち。

そうして勘違いしたまま戦い続けた「世界」の重さに耐えかねた秀一くんは、ふいっと皆の前からいなくなってしまった。実に高校生らしい方法で、逃げないために逃げていってしまった。

なんかもう、彼について是か非かとか、善か悪かとか、倫理とか道徳とか、そういう問題じゃないんだよな。ただ、そういう存在だった、っていう、それだけの話なんだよな。櫛森秀一という男の子がいた。櫛森秀一はこういう男の子だった。それだけ。

 

「少年の存在というのは悲劇にならざるを得ない」って言ったのは宮崎駿だったと記憶していますが、狭い水槽の中で、息苦しく口をぱくぱくさせてる、正論で生きていけないことはわかっているけれど嘘ばかりの大人になってしまうのが怖く、後になってみれば一瞬で過ぎ去ってしまうのに渦中にいる間は今の苦しみが永遠に続いていくように感じる、そういう「あの頃」の悲劇性の美しい標本みたいな映画だと思います。

 

 

演技と演出の話をします。もう全体の雰囲気からしてきらきらと透き通っていて冷たくて静かな、下手に情緒的でもなく、なんていうか水の底みたいな雰囲気がずっとありますよね。人々も景色も。

それからセリフなんかはあんまり説明的ではなく、ただあのガレージを見ただけで秀一くんがどんな人間かわかるような、そういう画がすごいなぁって思う。水族館とか、夜のコンビニとか、洞窟みたいな高校の前の坂道とか、そういうパッと思い出せるような背景がすごいよね。すごいしか言ってないな私…すごい。

なんていうか全然見てないのに言うんですけれど、大野さんはたぶん、スタートからキャラクター性がかっちり決まっていて、彼はこれこれこういう人、それがこんな目に遭うとどんな振れ幅がでてくるか、っていうスタイルの作品にキャスティングされると活きる人で、逆に二宮くんはその人となりをずっと作中時間で一緒に追いかけていって、見終わった頃にああ彼はこういう子だったのか、っていうのがふっと残る、みたいなそういう性質のものにキャスティングされるのに向いてるんだろうな、とふと思いました。なんとなく感覚で言ってるけど。これもそういう作品で。

何がすごいって、お目目なんだよな……きらきらしてるんだけど、なんつーのかな、ああもうここには二度と戻れないんだろうな、っていうような、そういうやべぇ光と見えにくい熱みたいなのがありますよね。刹那的っていうのかな、そういうのが秀一くんという生き物なんだけど。そしてそのままきらきらとしたものを失わないように時を止めてしまうのだけれど。

それから「痛みを置き換える」ための声ね。本当に。最後の好きなものの羅列。あれだけでオートマで涙が出てきそうになるもんね。松浦亜弥ちゃん。最後の絵筆を手にこちらをにらみつける表情だけで5000兆点あげる。

 

悲しく、だからこそ、それでこそ美しい映画です。悲しいっていうことの、若いっていうことの、苦しいっていうことの標本みたいな映画なんだよ、本当に。

 

 

 

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